巨人の肩の上に登る

先人の積み重ねた発見に基づいて、なにかを発見しようとすることを指す。

【書評】MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

クリス・アンダーソン著の”MAKERS―21世紀の産業革命が始まる”を読んだので,印象に残った所をメモ.
感想としては,前作のFREEに比べて,大きな刺激を受けませんでした.2012年10月出版ということもあり,一年前なので,2013年12月現在だと知っている情報が多かったためだと思います.全体としは非常に面白く,モノ作りに対するモチベーションのアップになりました.

本書は,3Dプリンタをはじめとした技術革新によって,ソフトウェアのように個人がハードウェアを容易に製造し起業できるようになることを示唆している.これは,ビット(情報)の世界で起こっていることが,我々が生きているアトム(原子)の世界でも起こることを意味している.そしてアトム(原子)の経済規模はビット(情報)の比ではない.ビット(情報)の無重力経済は第三次産業革命とも言われ話題になっているが,アメリカのGDPで考えると5分の1にすぎない.

本書に関する全体的なレビューは他のサイトでも数多く見れ,すでに身近な製品やサービスにも出て来ている.そこで本稿では,僕が特に印象に残ったとこだけ抜粋する.

世界でもっとも強力なアイデア

p48-49に,1700年代イギリスでの特許関連の法律・政策に触れています.特許は,職人たちに発明を促すだけでなく,発明をシェアするインセンティブとなったとあり,「世界でもっとも強力なアイデア(The Most Powerful Idea in the World)」[William Rosen 2010]を引用しています.それ自体は良いのですが,世界でもっとも強力なアイデアってなんだ?っと思い,少し調べてみました.

まず,The Most Powerful Idea in the World は洋書しかなく,Microsoft創業者ビル・ゲイツ氏が自身のブログに投稿した The Best Books I Read in 2013にも上げられていました.(参考 ビル・ゲイツが選ぶ「今年読んで良かった7冊」は必読だと思う@narumi)
次に,世界で最も強力なアイデアとは,"蒸気機関”であると述べています.というのも,蒸気機関を活用するために数多くの技術革新が必要だったからです.例として,正確な測定に基づくフィードバックのためのマイクロメーター等があります.
The Most Powerful Idea in the World の著者Rosen氏曰く,正確な測定によるフィードバックがなければ、発明は”稀有で不安定であることを運命づけられている”.フィードバックがあれば、発明は”特別なことではなくなる”.

The Most Powerful Idea in the World に関連する記事

WSJ 世界の問題を解決するために必要なもの=ビル・ゲイツ
ビル·ゲイツからの 2013 年度年次書簡


イケア効果

p91-92 あの家具のイケアです.
イケア効果とは,次のようなものです.

人は自分で手間をかけることがクオリティーの向上に繫がると信じる

本書に例として,行動経済学者のダン・アリエリーの引用を乗せており,不合理で面白かったです.

アメリカの専業主婦の家事負担を軽減し,生活を簡単便利にしようという国民的なトレンドに乗って,1950年代にインスタントケーキミックスが発売された当初は,拒否反応が起きた.ケーキミックスはお手軽すぎて,主婦の労働や技術が過小評価されると感じた人がいたからだ.その後,食品会社は,レシピを変え,ミックスに卵を加えるようにした.この変更だけが商品の大ヒットにつながったわけではないにしろ,手作業を加えることが成功のカギになったと思われる.

余談ですが,ダン・アリエリーの書籍やプレゼンテーションは非常に面白いです.

ダン・アリエリーに関する書籍・動画

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

我々は本当に自分で決めているのか?


既存の製品の改革を考える枠組み

p40 改革用ツールキット

  1. もしその製品がインターネットにつながると,なにがどう良くなりますか?
  2. もしデザインがだれにでも改変できるとすれば,どう改善されるでしょう?
  3. 特許使用料がなければ,値段はどのくらい下がりますか?

本書では,スプリンクラーの例が示されています.


国富論

p89 メイカーは,どんな専門品も作る人でも原材料のグローバルなサプライチェーンを利用し,完成したニッチ商品を世界中の消費者に届けることが可能になった.
これがある意味で,アダム・スミスが「国富論」で唱えた,効率的な市場を支える専門家の行き着く姿であるといえる.つまり,効率的な分業こそが社会全体の生産性が上げる.これは18世紀に上手く言ったが,21世紀ではもっと効果的になる.
アダム・スミス国富論は中々読む機会がなく,読めていないので,是非読んでみたい.


この世に物語は7つしかない

p96 非常に共感できた一節.

僕らはリミックス文化の中で生きている.あらゆるものは過去のなにかにヒントを得て生まれ,創造性は独創的な作品の中にだけではなく,既存の作品の新たな解釈の中にも発揮される.

本書では例として,つぎの様な話をしている.  

ギリシャ人は,物語の原型は7つしかなく,あらゆる物語はそのいずれかの細部を変えたものにすぎない

面白いなあと思ったのですが,Googleしてみても関連する情報を得ることができず.
また調べてみます.

因みに僕のブログのタイトルは,12世紀のフランスの学者シャルトルのベルナールの言葉,"巨人の肩の上に立つ"をもじったものです.意味としては,現代の学問は多くの研究の蓄積の上に成り立っているということです.


イノベーションを維持する方法

p210 ピサノとシーはハーバード・ビジネス・レビューに発表したアメリカの競争力に関する論文で,イノベーションを維持する方法に触れています.

  1. 集合的な研究開発
  2. エンジニアリング
  3. 製造能力といった「産業の共有資源(インダストリアル・コモンズ)」の積み上げ

ピサノとシーは,完成品を作るだけでなく,発明し,完成品に組み込む部品を作り,それらすべてを行える世代を訓練すべきであると述べています.


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